施工体制台帳への作業員名簿の記載が義務化されました。
この制度変更の背景には、建設業界が長年抱えてきた構造的な課題があり、それらを解決するための一歩として、この義務化が進められたのです。
今回は、この義務化がなぜ行われたのか、その背景について詳しくお伝えしていきます。
人材不足の建設業界
現在、日本の建設業界は深刻な人材不足に直面しています。
人手を補う手段として、海外からの労働者を受け入れる動きも進められていますが、今後の日本経済が価格競争力を失っていく中で、この方法も長期的には限界があると考えられています。
さらに、かつて業界を支えてきた団塊の世代はすでに現場を離れ、団塊ジュニア世代も引退が視野に入ってきました。
つまり、建設業界から大量のベテラン人材が抜けていく時代が目前に迫っているのです。
一方で、人口そのものが減少し、若年層の数も減っているため、新たな担い手を確保するのはますます難しくなっています。
加えて、建設業界は若者にとって「人気業種」とは言えず、なかなか人材が集まらないという現実もあります。
このまま何の対策も取らなければ、建設業界は深刻な人材不足に直面し、現場の維持すら困難になる恐れがあります。
こうした状況を受けて導入された対策のひとつが、「作業員名簿の施工体制台帳への記載義務化」です。
この制度は単なる事務作業ではなく、業界全体の人材管理の透明化や、労働環境の整備に向けた第一歩と位置づけられています。
それでは、もう少しこの背景と制度の詳細について見ていきましょう。
労働環境の改善手段
作業員名簿の義務化には、いくつかの目的がありますが、その一つが労働環境の改善です。
これまでの建設業界では、過酷な労働条件や、社会保険に未加入の企業が少なくないという実態がありました。
一部では、社会保険への加入が企業の経営を圧迫し、利益を圧縮して倒産につながるといった声もありました。確かに、その側面も否定はできません。
しかし本来問題にすべきは、そうした厳しい環境で働かされている労働者の側なのです。
社会保険に加入できないような体質の企業が生き残るのではなく、きちんとした利益構造を持ち、労働者を正規に雇用し、適切な環境を整備できる企業が残っていくべきだというのが、国の基本的な考え方です。
実際、過去にも国の取り組みにより、社会保険や労災保険の加入率が少しずつ上がり、それに伴って労働環境の改善が進んできました。
今回の作業員名簿義務化は、その流れをさらに強化するものです。
一次請けはもちろんのこと、二次・三次といった下請け構造の末端に至るまで、すべての作業員が社会保険に加入している状態を作る――
そうしなければ、建設業界に若者が入ってこず、将来的に業界そのものが立ち行かなくなるという危機感が、国にはあるのです。
こうした背景から、作業員名簿の義務化は「見える化」と「責任の明確化」を通じて、労働環境を底上げする重要な手段として導入されているのです。
一人親方、皆さんの環境改善
作業員名簿の義務化には、もう一つ重要な目的があります。
それは、一人親方さんの労働環境の改善です。
かつて偽装請負が社会問題となったように、一人親方の働く環境は、しばしば劣悪であることが指摘されています。
本来であれば、「法定福利費」として健康保険や労災保険に必要な費用を、元請けに対して請求することが可能です。
これは一人親方さんであっても、現場で安全かつ安心して働くための権利として認められています。
しかし実際には、価格競争が激化する中で、立場の弱い一人親方はその法定福利費を請求しづらい状況に追い込まれています。
結果として、自分で必要な保険料を負担することになり、生活を圧迫してしまっているケースも少なくありません。
こうした状況が続けば、建設業界から人がどんどん離れていってしまう――
そうした危機感から、国はこの環境を是正する必要があると判断しています。
作業員名簿の義務化には、法定福利費が適正に支払われているかを可視化し、一人親方が正当に請求できる環境を整備するという目的があるのです。
名簿を通じて現場で働く人の状況を把握し、すべての労働者が適正な待遇を受けられる体制を構築する。
それが、今回の制度改正に込められたもう一つの狙いです。
施工体制台帳への作業員名簿義務化の理由とは
施工体制台帳への作業員名簿の義務化は、建設業界における人材確保のための重要な施策のひとつとして位置づけられています。
これまで建設業界は「職人の世界」とされ、社会保険などの制度が整っていない企業も多く存在してきました。
そのような環境では、若者が安心してこの業界に入ってくることは難しく、結果として新たな人材の流入が滞ってしまいます。
さらに、団塊世代が現場から姿を消し、続いて団塊ジュニア世代の引退も目前に迫っています。
このままでは現場の担い手がいなくなり、深刻な人材不足に陥るのは時間の問題です。
こうした危機を回避するには、まず労働環境の改善が不可欠です。
今の若者は、労働条件が整っていない環境では長く働き続けることができません。
だからこそ、作業員名簿の義務化を通じて実態を「見える化」し、社会保険への加入や適切な処遇を徹底することが求められているのです。
作業員名簿の義務化は、労働環境の改善と人材の定着を図るための第一歩。
これが、制度導入の背景にある大きな目的です。
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