建設業で一人親方として活躍されている方の中には、「この働き方をいつまで続けられるのだろう」と不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
そもそも一人親方とは、建設業に従事する個人事業主を指します。そのため、制度上は今後も一人親方という働き方は続いていくものと考えられます。
しかしながら、すべての状況においてこの働き方が安泰とは言い切れません。なぜなら、法改正など外部環境の変化によって、個人事業主という形態自体が厳しくなる可能性もあるからです。
その一例として挙げられるのが、2023年に施行された「インボイス制度」です。この制度は、一人親方にとって大きな負担となる可能性があります。
インボイス制度によって、元請け業者が一人親方に仕事を発注しづらくなる、もしくは発注を控えるような状況が生まれるかもしれません。そうなると、仕事の機会が減り、結果として一人親方として働き続けることが難しくなるケースも出てくるでしょう。
今回は、一人親方の将来を左右するかもしれない「インボイス制度」について解説します。一人親方として働く方にも、元請け業者の方にも知っておいていただきたい内容ですので、ぜひ最後までご覧ください。
技術革新と法律の変化が仕事を奪う
これまでにも、法律の改正や技術の進歩によって、数多くの仕事が姿を消してきました。
たとえば、今30代以上の方であれば覚えているかもしれませんが、かつては駅の改札口に係員が立っていて、切符を一枚ずつハサミで切ってくれていました。しかし、自動改札機の登場によって、その業務は必要なくなりました。
もちろん、JRのような大企業であれば、職員がすぐに解雇されるようなことはなかったでしょうが、配置転換や新しい業務への対応が求められたはずです。また、それに伴い新規採用が抑制された可能性もあります。
このように、技術の進歩によって「これまで当たり前だった仕事」がなくなるのは、決して珍しいことではありません。
建設業界でも同じことが起きようとしています。たとえばICT建機(情報通信技術を活用した建設機械)の導入が進むことで、これまで人の経験や勘に頼っていた作業が、組織的かつ機械主導で行われるようになってきています。
現場での作業に限らず、設計段階でもAIが関わる未来が予測されています。いや、予測というより、すでにその流れは始まっており、実現は時間の問題といえるでしょう。
そうなると、人手が余る時代が来るかもしれません。そのとき、一人親方としての仕事が残っているかどうか、不安を抱くのも無理はありません。
とはいえ、すべての業務がすぐに機械やAIに置き換わるわけではありません。一人親方の仕事の中には、依然として人の手や判断が求められる部分も多く、比較的影響を受けにくいという見方もできます。
しかし、将来を見据えて、自分のスキルや立ち位置を見直すタイミングに来ているのは間違いないでしょう。
関連記事:ICT建設機械導入のポイントとメリットデメリットをとは
1人親方の仕事が減少する、もう一つの確実な理由
技術革新によって一人親方の仕事がすぐに奪われるという未来は、少しイメージしにくいかもしれません。しかし、より現実的に迫ってきているのが、「住宅建築数の減少」という問題です。
日本はすでに人口減少のフェーズに突入しており、少子高齢化が進む中で、新たに住宅を建てる人の数も年々減少しています。
さらにここ数年は、「アイアンショック」や「ウッドショック」など、建築資材の価格が急騰したことも影響し、住宅価格は大きく上昇しました。その結果、若い世代を中心に「新築よりも中古住宅を購入してリノベーションする」という選択肢を取る人が増えてきています。
つまり、新築住宅の建設数は減少傾向にあり、材料費の高騰は人件費の圧縮にもつながっていると考えられます。これによって、現場で働く一人親方の必要数も、徐々に減っていく可能性が高いのです。
このような背景を踏まえると、「一人親方がいなくなる未来」は、けっして遠い話ではなく、確実に少しずつ近づいてきているのかもしれません。
さらに、一人親方が減っていくもう一つの要因として、「法律の変更」も大きな影響を与えることが考えられます。
インボイス制度とは?一人親方に与える影響
「インボイス制度」とは、消費税に関する新しい仕組みで、簡単に言えば「消費税の正確な請求と控除を行うための領収書(インボイス)を発行するルール」のことです。
この制度の導入によって、これまで消費税を納めてこなかった多くの個人事業主、つまり免税事業者も、今後は「消費税を納めるか」「仕事の依頼を断られるか」の選択を迫られるようになる可能性が出てきました。
なぜそうなるのか、具体的に見ていきましょう。
たとえば、元請け企業が1億円の工事を受注し、そのために1,000万円分の資材などを仕入れたとします。この場合、1億円の売上には10%の消費税がかかるため、元請け企業は1,000万円の消費税を受け取ることになります。
一方、1,000万円の仕入れには100万円の消費税が含まれています。従来の制度では、この100万円分を「仕入税額控除」として差し引くことができるため、最終的に納める消費税は差し引き後の900万円となります。
ところがインボイス制度では、「仕入先がインボイス(適格請求書)を発行していなければ、その消費税は控除できない」というルールが加わりました。
つまり、仕入先がインボイスを発行しない免税事業者(=消費税を納めていない個人事業主)だった場合、元請け企業は本来控除できるはずの消費税を控除できず、その分損をしてしまうのです。
このため、元請け企業は「インボイスを発行できる課税事業者」としか取引をしなくなる可能性が高くなります。
一人親方も例外ではありません。これまでは免税事業者として消費税を納める必要がなかったとしても、元請けと継続的に取引を続けるためには「課税事業者として登録し、インボイスを発行する」ことが事実上の条件となっていきます。
その結果、これまで支払わなくてもよかった消費税の負担が新たに発生するのです。
これは、一人親方として働く個人事業主にとって、収益を圧迫する大きな打撃となりかねません。インボイス制度は、単なる書類の話ではなく、仕事の継続にも関わる非常に重要な問題と言えるでしょう。
インボイスを発行できない一人親方さんは、これからどうすべきか?
インボイス制度の導入により、非課税事業者(免税事業者)の一人親方は、次の3つの選択肢を迫られることになります。
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課税事業者として登録し、インボイスを発行する
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非課税事業者のままで、取引先に消費税分を負担してもらう
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取引自体を打ち切られる
もし、インボイスを発行できないまま非課税事業者として元請け企業(課税事業者)と取引を続けるとどうなるでしょうか。
元請け企業は、あなたへの支払いに含まれる消費税分(仕入税額)を控除することができません。つまり、本来は国に納める必要のない消費税まで追加で負担することになってしまいます。
当然、企業側としてはそのような負担を避けたいと思うはずです。結果として、インボイスを発行できる別の一人親方に取引を切り替える可能性が高くなります。
一方で、取引が継続されたとしても、あなたの代わりに取引先が10%の消費税を負担している、という構図になるわけです。これは、長期的には関係にひずみを生む可能性もあります。
では、迷惑をかけないために課税事業者として登録し、インボイスを発行しようと考えた場合、どうなるでしょうか。
結論から言えば、売上の約1割が消えることになります。
これまで、年間売上が1,000万円未満の一人親方は免税事業者として、消費税を納める必要がありませんでした。しかし、課税事業者になることで、売上に対して10%の消費税を国に納めなければならなくなります。
たとえば、年間売上が900万円の一人親方であれば、90万円を消費税として納税することになり、実質的に手元に残る金額は大きく減少します。所得税などとは別に、この負担が増えるのは大きな痛手です。
つまり、インボイス制度のもとで一人親方は、
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消費税を納めてでも取引を続けるか
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取引を断られるリスクを負いながら免税のままでいるか
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あるいは企業などに所属して働くか
という難しい選択を迫られているのです。
もちろん、これによって「一人親方という働き方が完全になくなる」わけではありません。しかし、インボイスを発行できる一人親方が少ないため、元請け側からすれば「仕事を任せられる人が見つからない」という事態も現実に起こり得ます。
今後、建設業界においてインボイス制度は、一人親方の働き方や業界構造に少なからず影響を与えていくでしょう。
法律の変化は一人親方さんの働き方を大きく左右する
今回はインボイス制度を例に取り上げましたが、このように法律の変更によって、一人親方という働き方が存続できなくなる可能性は十分にあります。
そうならないためにも、これからの時代は「法制度を正しく理解したうえで仕事をしていくこと」が今まで以上に重要になってくるでしょう。
特に元請けの立場にある方は、法律に詳しくない一人親方であっても、そのまま放っておくのではなく、必要な法改正の情報をきちんと共有し、対応を促していく責任があると考えます。
一方、一人親方としても、インボイス制度の仕組みをきちんと理解し、課税事業者になった場合は必要な分の消費税を正しく請求するという意識を持つことが求められます。
そもそも、これまで非課税事業者として免除されていた消費税分は「実質的な利益」として手元に残っていた部分でもあります。その分の利益をどう活かすか——たとえば、設備投資や技術習得、営業活動などに回すことも、今後の経営を安定させる手段となるでしょう。
インボイス制度が完全に義務化されるまでには、まだ一定の準備期間があります。
その間に、元請けも一人親方もそれぞれの立場で、しっかりと対応策を講じ、制度に備えていくことが大切です。
関連記事:インボイスによって仕事がなくなる一人親方
国税庁HP引用:インボイス制度の概要
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【団体概要と運営方針】中部労災一人親方部会(一人親方部会グループ)は、厚生労働大臣・岐阜労働局から特別加入団体として承認されております。建設業一人親方の労災保険の加入手続きや労災事故対応を主な業務として運営され、建設業に従事する一人親方様向けに有益な情報配信を随時行っております。
【中部労災の特徴】一人親方様が当団体で労災保険にご加入いただくことで、会員専用建設国保、会員優待サービス(一人親方部会クラブオフ)のご利用をはじめ、万が一の事故対応やきめ細やかなアフターフォローができるよう専用アプリを提供しております。
【団体メッセージ】手に職を武器に働く一人親方様のために、中部労災一人親方部会は少しでもお役にたてるよう日々変化し精進してまいります。建設業界の益々のご発展をお祈り申し上げます。
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