
自分の会社で働く職人が、他社に引き抜かれてしまう――。
そんな事態は、どの現場でも起こり得ます。
腕の立つ職人がいれば、「ぜひうちで働いてほしい」と思うのは自然なことです。
しかし、引き抜かれる側にとっては、時間と労力をかけて育てた大切な人材を失うことになり、決して軽い問題ではありません。
では、なぜ引き抜きは起こるのか。
そして、どうすれば防げるのか。
この記事では、引き抜きの実態とその対策について詳しく解説します。
どんな風に起こる?一人親方が引き抜かれるパターン
引き抜きが起こるとき、実際はどんな場面で起きるのでしょうか。
その場所やきっかけはさまざまです。
現場で親方の目の前で堂々と誘われることはまずありません。
しかし、現場にいないタイミングや、独立して1人で動いているときなど、誰の目もない状況では声がかかることがあります。
多くの場合、最初は何気ない会話から始まります。
「日当いくらもらってるの?」――そんな一言をきっかけに話が進み、最終的には「うちなら○○円出せるけど、こっちで働かない?」と誘われるケースが多いようです。
また、食事やゴルフなどに誘われ、その場で条件交渉に発展することもあります。
これは建設業界に限らず、どの業界でも起こり得ることです。
さらに、「地位を用意する」「昇進させてあげる」など、耳ざわりの良い言葉をかけられることも珍しくありません。
とはいえ、あなたが育てた職人が引き抜かれるほど魅力的に見えるということは、裏を返せばあなたの指導や仕事ぶりが認められている証拠でもあります。
それだけ価値ある人材を育てたという誇りを持つべきでしょう。
しかし、せっかく育てた職人が離れてしまっては元も子もありません。
だからこそ、引き抜きに対してもしっかりとした対策を考える必要があるのです。
一人親方になる提案をしておく

引き抜きは、会社にとっても、引き抜く側にとっても、そして職人本人にとっても悩ましい問題です。
しかし、実は三者すべてにとって理想的な解決方法があります。
それが 「一人親方として独立する」 という選択です。
職人が一人親方として独立すれば、あなたの会社と引き抜こうとしていた会社、どちらの仕事も自由に受けることができます。
つまり、職人自身が自分の裁量で働く現場を選べるようになるのです。
そうすれば、自社にとって「この人でないとできない仕事」に対しては、高い報酬を支払って依頼することができます。
同様に、他社も必要なときに相応の対価を払って仕事をお願いできる。
結果的に、職人の収入も上がり、誰もが納得できる関係が築けるのです。
もちろん、時間をかけて育てた職人が自分の元を離れていくのは、寂しく感じるでしょう。
ですが、「この人でなければ」という仕事は、そう多くはないはずです。
だからこそ、優秀な人材には独立して活躍してもらい、その枠で新しい人を育てていけばいいのです。
そして、その職人が成長し、業界の中で自由に稼げるようになれば、いずれ必ず恩返しが返ってきます。
人は、育ててもらった恩をそう簡単には忘れません。
もちろん、全員がそうとは限りませんが、何人も育てていけば、1人や2人は必ずあなたのもとへ戻ってきてくれるはずです。
もしかすると、将来その弟子が数億円規模の仕事をあなたに紹介してくれるかもしれません。
そうなれば、自分の弟子が全国で活躍する“親方”として、あなたは一生困らないでしょう。
もちろん、仕事内容によっては、その職人が他社の仕事を多く受けるようになることもあります。
ですが、引き抜かれるほど人気があるというのは、それだけ優秀な証拠です。
だからこそ、引き抜きを恐れるよりも、「育てたことを誇りに思い、次の人材を育てていく」ことを大切にしていきましょう。
参考記事:建設業一人親方になるための手続きについてわかりやすく解説!
前もって話し合っておくことが大事
引き抜きが起きたとき、多くの場合、職人は相談せずにそのまま移籍してしまうものです。
それは仕方のないことです。
引き抜かれる立場になれば、親方や会社に「他から誘われました」とは言いにくいものですから。
だからこそ、優秀な職人に対しては、あらかじめ“一人親方としての道”を選択肢として用意しておくことが大切です。
そのうえで、こう伝えておくとよいでしょう。
「もしどこかから声がかかったら、そのタイミングで独立を考えてみてもいいんじゃないか」
引き抜きの話が来るということは、どこに行っても通用する実力を身につけた証拠です。
その時点で独立すれば、仕事に困ることは少ないでしょうし、「この人でなければ」と言われる現場では、単価を上げることも可能になります。
そして、「その時が来たら自由に一人親方としてやっていい」と、最初から伝えておくのです。
そうすれば、引き抜きにあった際にも、きっと相談してくれるはずです。
結果として、手放すことなく、一人親方として新しい形で関係を続けることもできるでしょう。
ただし、一人親方とは個人事業主です。
当然、リスクも伴います。
仕事がなければ収入は途絶えますし、すべての責任を自分で負う覚悟が必要です。
その代わりに、仕事を選ぶ自由を手に入れることができます。
だからこそ、そのメリットとリスクの両方を、あらかじめきちんと伝えておくことが重要です。
一人親方になってメリット、デメリットは何か?
まずデメリットですが
- 仕事がなければ無収入
- 事務作業を自分でやる必要がある
という点があります。
今まで事務処理や仕事をもらってくること、そして厚生年金もないので老後の準備も自分でしていく必要があるでしょう。
そしてメリットは
- 年収が増える
- 休みの日が自由
- 就業時間に縛られない
というメリットがあります。
自由に仕事が選べるので単価の高い仕事に移っていくことができるし、仕事を入れる日と入れない日の調整も自由。
もし家族のイベントがあっても必ず参加ができます。
さらに声をかけてくれた社長や親方、どちらの顔も立てることができて、どちらにも迷惑をかけることなく今回の問題を全て解決できます。
さらに社会保障がない分よりも多くの収入を得られるようになります。
このようにメリットとデメリットはあるものの、引き抜きされるだけの実力を持っている人であれば、ぜひ一人親方として独立を提案してあげるのは、職人のためでもあり、ひいては自分のためでもあるでしょう。
引き抜きの違法ではないか?
ごくまれに、「引き抜きは違法ではないのか?」という質問を受けることがあります。
結論から言えば、基本的に引き抜き行為そのものが法律で罰せられることはありません。
なぜなら、日本国憲法には「職業選択の自由」が認められており、誰がどこで働くかは本人の自由だからです。
そのため、引き抜かれて別の会社で働くという行為自体は、原則として問題になりません。
ただし、例外があります。
それが「競業避止義務(きょうぎょうひしぎむ)」に関する問題です。
つまり、前の会社と同じ業種で同じような仕事をすることで、元の会社の利益を損なうような場合には、契約内容によってはトラブルになる可能性があります。
この点は、憲法上の「職業選択の自由」と民法上の「競業避止義務」との関係が関わってくるため、少し複雑ですが、次の項で詳しく説明していきます。
競業避止義務違反
会社を辞めたあと、元の会社と競合する仕事を一定期間してはいけないという義務のことをいいます。
たとえば、あなたの会社で働いていた職人が、退職後すぐに同じ地域・同じ業種の会社に移って、
元の顧客や取引先をそのまま引き継いでしまう――
こうした行為は、元の会社にとって大きな損失になります。
そのため、従業員や役員が退職時に「競業しない」という約束を交わすことがあります。
これが競業避止義務です。
ただし、ここで重要なのは、
日本の法律ではこの義務を無制限に課すことはできないという点です。
憲法では「職業選択の自由」が保障されています。
そのため、
-
競業を禁止する期間が長すぎる
-
地域が広すぎる
-
仕事の範囲が曖昧
-
補償金(代償)が支払われていない
といった場合には、契約書に書かれていても無効と判断されることがあります。
つまり、「会社を守る」ための取り決めであっても、
本人の働く権利を不当に奪うような内容は、法律上認められないということです。
参考記事:厚生労働省HPより
一人親方には競業避止義務はあるのか?
結論から言えば、一人親方には基本的に競業避止義務はありません。
一人親方は会社に雇われている「従業員」ではなく、独立した個人事業主です。
そのため、どの会社から仕事を受けるか、誰と契約するかは本人の自由です。
これは、法律上の「職業選択の自由」にも完全に一致します。
つまり、一人親方が「A社の現場の仕事を終えたあと、B社の現場で働く」ことや、
「翌月から別の元請けの下で動く」ことも、基本的には問題ありません。
ただし、いくつか注意すべき例外もあります。
それは、
-
契約書や請負契約で「同業他社との取引禁止」などの特約がある場合
-
元請けの企業秘密や技術情報を扱っている場合
-
元請けの信用や取引先情報を損ねる行為をした場合
こういったケースでは、たとえ一人親方であっても、
信義則(ビジネス上のモラルや誠実義務)に反すると判断され、
トラブルや契約解除の原因になることがあります。
ですから、一人親方として活動する際は、
-
契約内容をしっかり確認する
-
他社の情報をむやみに持ち出さない
-
現場での信頼を守る
といった基本を徹底しておくことが大切です。
一人親方は「自由に仕事を選べる」反面、「信頼で成り立つ」働き方です。
自由と責任はセット――それを理解したうえで、堂々と業界内で活躍していきましょう。
去る者に報復すれば、恩は二度と返ってこない
職人が引き抜きにあったときこそ、快く送り出してあげることが大切です。
建設業界は狭い世界です。
特に小規模な会社同士であれば、別の現場で再び顔を合わせることも珍しくありません。
だからこそ、転職や独立をしたとしても、今後どこかでまた関わる可能性があるということを忘れてはいけません。
結局のところ、周囲からどう思われるかは親方自身の人格次第です。
もし、職人が離れたあとに嫌がらせをしたり、仕事を妨げるような行動をとれば、
その職人がどれだけ感謝の気持ちを持っていたとしても、恩を返すことができなくなってしまいます。
職人がどのような道を選ぶかは、その人自身の人生です。
遠くから見守り、独立するなら応援し、転職するならその決断を尊重する。
そうした姿勢を持つことで、いつかその職人が再びあなたのもとへ戻ってくる可能性もあるでしょう。
そして何より、報復だけは絶対にすべきではありません。
なぜなら、あなたはその職人を育てた「恩師」であり、
感謝されるべき存在だからです。
まとめ
職人の引き抜きを防ぐためには、あらかじめ「一人親方として独立する」という方針を話し合っておくことが大切です。
そうしておけば、職人を無理に手放すことなく、自由な働き方を尊重しながら関係を続けることができます。
その結果、あなたの会社で育った職人の技術力や人間性が評価され、
「この会社の職人はレベルが高い」と評判が広がり、さらに多くの仕事が集まってくるでしょう。
そして、独立した職人が自分の力で幸せをつかめば、
いつか必ず恩返しの形であなたのもとへ戻ってくるはずです。
だからこそ、焦る必要はありません。
あなたはこれからも、新たな職人を育て上げていけばいいのです。
それこそが、親方としての本当の誇りなのです。
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【団体概要と運営方針】中部労災一人親方部会(一人親方部会グループ)は、厚生労働大臣・岐阜労働局から特別加入団体として承認されております。建設業一人親方の労災保険の加入手続きや労災事故対応を主な業務として運営され、建設業に従事する一人親方様向けに有益な情報配信を随時行っております。
【中部労災の特徴】一人親方様が当団体で労災保険にご加入いただくことで、会員専用建設国保、会員優待サービス(一人親方部会クラブオフ)のご利用をはじめ、万が一の事故対応やきめ細やかなアフターフォローができるよう専用アプリを提供しております。
【団体メッセージ】手に職を武器に働く一人親方様のために、中部労災一人親方部会は少しでもお役にたてるよう日々変化し精進してまいります。建設業界の益々のご発展をお祈り申し上げます。
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