
一人親方として仕事をしていると、年収が増えてきた頃に多くの方が悩むのが「そろそろ法人化した方がいいのか?」という問題です。
「売上が1,000万円を超えたら法人化すべき」「法人化しても大して変わらない」など、さまざまな意見を耳にすることもあるでしょう。
結論から言えば、法人化によって劇的に変わるわけではありません。
ただし、細かい部分を見ていくと、節税や信用面などで違いが出てくるのも事実です。
そこで今回は、一人親方の皆さんが法人成りを検討する際に知っておきたい「法人化のメリット・デメリット」についてわかりやすく解説していきます。
法人化のメリット

法人化にはメリットもデメリットも存在しています。
まずはメリットから紹介していきましょう。
1、税制上のメリット
まず一つ目は、法人成りを検討する大きな理由のひとつが「税制上のメリット」です。
日本の所得税は累進課税制度が採用されており、所得が増えるほど税率も高くなります。
そのため、収入(売上ではなく所得)が1,000万円を超えてくると、一般的には法人化することで税負担を軽減できるケースが多いと言われています。
ただし、これは一概には判断できません。
実際には「法人税と個人所得税の税率の違い」や「消費税の課税対象になるかどうか」など、複数の要素が関係してくるため、正確な判断にはシミュレーションが必要です。
そのため、最終的には税理士に相談して試算してもらうのが確実でしょう。
では、なぜ法人化に税制上のメリットがあるのか。
それは、利益が大きくなったときに法人の方が適用される税率が低くなるためです。
一方で、収入が少ないうちは個人事業のほうが税金面で有利になることもあります。
しかし、一定の所得を超えた段階で法人化すると、
「会社としての利益」と「自分への給与」を分けることができるようになり、
結果的に見た目の年収(課税対象額)を抑えて納税額を減らすことが可能になります。
2、経費になる割合
次に挙げられるメリットが、経費として認められる範囲や割合が、個人と法人で異なるという点です。
たとえば会食をした場合、個人事業では経費として計上できる範囲に制限がありますが、法人では「交際費」として一定の範囲内で認められるなど、扱いが柔軟になります。
また、自動車を所有する場合にも違いがあります。
個人事業主では納税後の資金(手取り)で車を購入しますが、法人では課税前の経費として計上できるため、実質的な負担が軽くなるケースがあります。
その結果、帳簿上では「半額程度で車を購入できたように見える」こともあるのです。
もちろんこれは会計上の考え方による部分もありますが、
「現金は減っているけれど、帳簿上の資産はしっかり残っている」という状態をつくることができるのが法人の特徴です。
このように、現金の動きと帳簿上の数字の差を上手に活用することで、
個人事業よりも効率的にお金を残しやすいのが法人の強みと言えるでしょう。
3、役員社宅
3つ目は、法人化することで得られる大きなメリットのひとつが、役員社宅制度の活用です。
法人は、会社名義で住宅を借り上げ、その家賃を経費として計上することができます。
個人として給料を受け取り、その中から家賃を支払う場合と比べると、大きな節税効果が期待できる仕組みです。
これも、法人成りの大きな魅力のひとつと言えるでしょう。
ただし注意点もあります。
あまりに高額で豪華な社宅の場合は、全額を損金として処理できないケースがあります。
とはいえ、一般的な広さの住宅であれば問題になることはほとんどなく、
240㎡を超えるような特別な物件でない限り、経費として認められる範囲内に収まります。
4、保険料が損金になる
4つ目は、法人化によって得られるもう一つの大きなメリットが、生命保険などの保険料を損金(経費)として処理できる点です。
個人事業では生命保険料を経費にすることは基本的にできませんが、法人であれば、保険の種類によっては会社の経費として計上できます。
この損金処理によって法人の課税所得を減らし、支払う税金を抑えることが可能になります。
また、法人保険の中には「返戻金が実質100%になるタイプ」もあり、課税前の収益を保険の中に一時的にプールしておくことができます。
この仕組みをうまく活用することで、利益を将来に繰り延べながら資金を効率的に運用できるのです。
保険のもう一つの魅力は、その柔軟な資金活用にあります。
契約内容によっては、途中で解約して資金を引き出し、赤字補填や資金繰りに充てることも可能です。
さらに、積み立てた保険を退職金として受け取ることもでき、退職所得控除によって課税が大幅に軽減されます。
つまり、法人で保険を活用すれば、
-
税金を抑えながら資金を積み立てられる
-
必要なときに引き出して資金繰りに使える
-
将来的に退職金として受け取れば、さらに低税率で資金化できる
といった、複数のメリットを同時に得られるのです。
このように、保険を損金処理できる点こそが、法人化による税制上のメリットの中でも特に効果が大きい部分と言えるでしょう。
5、破産や賠償の範囲を限定できる
法人化のもう一つの大きなメリットが、破産や損害賠償などの責任を限定できるという点です。
これは「有限責任」と呼ばれる仕組みで、たとえ会社が赤字になったり借金を抱えたりしても、
株主(=経営者)が負う責任は出資した資本金の範囲内にとどまります。
つまり、法人が損失を出しても、原則として代表者個人がその借金を直接返済する義務はありません。
個人事業主の場合、事業上の借金やトラブルの責任はすべて自分に返ってきますが、
法人の場合は「会社」という別の人格が責任を負うため、リスクを切り離すことができるのです。
もちろん、銀行からの借り入れの際に代表者が個人保証人になるケースは多く、
その場合は法人とは別に個人としての責任が発生します。
それでも、あくまで一旦は法人の中で責任が完結するというのが大きな違いです。
また、仕事中の事故などで損害賠償を求められた場合も、
法人としての業務中に発生したトラブルであれば、責任は法人に帰属します。
代表者個人が直接賠償を求められることは原則ありません。
このように、法人にしておくことで、
「個人では抱えきれないリスクから身を守る」ことができるというのは、
法人成りして実感できる大きな安心材料の一つです。
ただし、個人保証をつけた借入や、重過失による損害などは例外的に個人責任を問われることもあるため、
この点だけは十分に注意しておく必要があります。
6、信用が上がる
最後に、法人化のもう一つの大きなメリットが、社会的な信用が格段に上がるという点です。
個人事業として仕事をしている場合と比べて、法人は取引先や金融機関、行政などからの信頼度が明確に高くなります。
その結果、個人では難しいような大きな金額の融資を受けられる可能性も広がります。
法人になると、毎年の決算書や試算表をしっかりと作成・管理する必要があり、
銀行や取引先からも定期的にチェックを受けるようになります。
この過程を通じて「数字に強く、経営が安定している会社」という評価を得られれば、
新しい仕事の受注や資金調達がスムーズに進むようになります。
さらに、行政や公的機関が関わる仕事を請け負う場合、
法人であることが条件となるケースも少なくありません。
つまり、より大きな仕事を目指すのであれば、
法人化は避けて通れないステップと言えるでしょう。
このように、法人化することで「信用力が上がり、仕事のチャンスが広がる」という点も、
法人成りの大きな成功要因のひとつです。
法人化のデメリット

メリットがあればデメリットもあるのが世の常。
ここからはデメリットについても触れていきます。
1、法人の口座にあるお金は、社長の私物ではありません
人事業主とは異なり、法人化すると会社のお金は「会社のもの」になります。
自分の収入は、あくまで会社から支払われる給料として受け取るものだけです。
このように、法人化によって「自分のお金」と「事業のお金」が明確に区別されるようになります。
そのため、会社の資金を私的な目的で自由に使うことは原則として認められません。
会社のお金はあくまで事業活動のための資金であり、個人の生活費とは別の扱いになります。
もっとも、株式会社の場合、自分が株主であれば最終的には会社の所有者でもあるため、
「自分の会社=自分の資産」と言える側面もあります。
ただし、これはあくまで所有と利用の概念が異なるということ。
会社のお金を使うには、給料や配当など、正しい手続きを踏む必要があります。
2、最大の難点は高額の社会保険料
2つ目は、法人成りをした瞬間に避けて通れないのが、社会保険への加入義務です。
法人を設立すると、社長本人だけでなく、従業員を雇っている場合は必ず社会保険に加入しなければなりません。
これにより、個人事業主時代に加入していた国民健康保険・国民年金から、社会保険(健康保険+厚生年金)へ切り替わることになります。
ただし、労災保険だけは例外です。
法人の代表者は通常の労災保険に加入できないため、これまで通り「一人親方特別労災保険加入」を行う必要があります。
社会保険に加入すると、会社と本人の双方で保険料を負担するため、1人あたり月10万円前後のコスト増になるケースもあります。
また、従業員を抱える場合は人数分の社会保険料を会社が半分負担することになり、その金額は決して小さくありません。
さらに厄介なのが、手続きの煩雑さです。
個人事業主であれば不要だった社会保険関連の書類作成や届出業務が一気に増え、
給与計算・資格取得届・算定基礎届など、慣れるまでは相当な事務負担となります。
自分で行うのが難しい場合は、社会保険労務士に依頼する必要があり、その分の外注コストも発生します。
多くの経営者が「法人成りして後悔した」と感じる理由の一つが、
この社会保険料の負担と手続きの煩雑さなのです。
もっとも、社会保険には将来の年金額が増える、医療保障が手厚くなるなどのメリットもあります。
ですから、「費用と手間はかかるが、その分の安心が得られる制度」と理解しておくのが現実的です。
3、法人口座が使いづらい
最後に、法人化すると意外に感じるかもしれませんが、銀行の使い勝手が悪くなるというデメリットもあります。
特に都市銀行ではその傾向が強く、個人事業主のときに使っていた口座とはシステム面でも大きく異なります。
手数料が高く設定されていることも多く、さらにネットバンキングの操作性や制限が厳しく、
「個人口座のようにスムーズに使えない」と感じる経営者も少なくありません。
そのため、振込や入出金のために平日の午前中や月末に銀行窓口へ行く機会が増え、
結果的に時間を取られてしまうケースもあります。
このように、法人化すると法人口座の開設と管理が必須になる一方で、
「銀行の利便性が下がる」というのは、実際に法人成りをしてみて感じる人の多い“盲点”のひとつです。
まとめ
法人化には確かに多くのメリットがありますが、一人親方にとってはデメリットの方が大きい場合も少なくありません。
たとえば、会社を大きくしたい、将来的に従業員を雇いたい、あるいは収入が大きく伸びている──
そんなケースでは、税制面での恩恵を受けられる可能性があります。
しかしその一方で、書類や手続きの量は一気に増加します。
そのために費やす時間や手間を「自分の時給」に換算してみると、
果たして本当に割に合うのか、という疑問も出てくるでしょう。
そしてもうひとつ大切なのは、お金の得よりも“時間”や“心の余裕”が自分にとって価値があるかどうかという視点です。
法人化によって収入が増えても、その分自由な時間が減り、ストレスが増えてしまっては本末転倒です。
もしかすると、あなたにとって本当に大切なのは、
「お金」よりも「時間」なのかもしれません。
投稿者プロフィール

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【団体概要と運営方針】中部労災一人親方部会(一人親方部会グループ)は、厚生労働大臣・岐阜労働局から特別加入団体として承認されております。建設業一人親方の労災保険の加入手続きや労災事故対応を主な業務として運営され、建設業に従事する一人親方様向けに有益な情報配信を随時行っております。
【中部労災の特徴】一人親方様が当団体で労災保険にご加入いただくことで、会員専用建設国保、会員優待サービス(一人親方部会クラブオフ)のご利用をはじめ、万が一の事故対応やきめ細やかなアフターフォローができるよう専用アプリを提供しております。
【団体メッセージ】手に職を武器に働く一人親方様のために、中部労災一人親方部会は少しでもお役にたてるよう日々変化し精進してまいります。建設業界の益々のご発展をお祈り申し上げます。
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